Parce que c'est comme ça

欧州大学院生。最終目標はバカンスのある人生。パスクセコムサ。

The Testaments 感想

気付いたら1月もあと1週間ですって。Incroyable。Spring semesterがはじまるーいやだーーー

いやね、勉強自体は楽しいのですが、なにがつらいって英語できないのがつらいよ。ずっと言ってる(いや一応、冬休みの間もいろいろして多少マシにはなったのですがね、限界があるよね)。

 

いろいろしたうちの一つに洋書を読む!というのがありまして、Magaret Atwoodの『The Testaments』を読んだわけです。『侍女の物語(The Handmaid's Tale)』と同じ世界線の、少しだけあとの物語。『侍女の物語』は、トランプ大統領の誕生により「もしかしたらありうる未来」として再注目されるようになった気がする(どこかでそんな分析を読んだ)のと、Huluでドラマになったことでかなり有名になった作品です。

すごくどうでもいいのですが、私が『侍女の物語』を読んだのはもう何年も前、『後宮小説』みたいなのが読みたい!と思って図書館をうろついていて、その題名だけで手に取ったのでした(ほら、侍女って後宮にいるじゃないですか)。もちろん読み始めてすぐ見込み違いだったことに気付くのですが、面白くて最後まで読みました。のちに前述のように話題になり、自分の慧眼というか運を嬉しく思ったものです。

というわけで感想です。原書で読んでいるので間違えて意味を取っているところなどあるかもしれません。ネタバレ盛り盛りです。

 

○別々に始まった三者の物語が合流していく気持ちよさ

お話は、Aunt Lydiaの"The Ardua Hall Holograph"、Agnes Jemima(Aunt Victoria)の"Transcript of Witness Testimony 369A"、Daisy(Jade/Nicole)の"Transcript of Witness Testimony 369B"の3つの語りによって進行していきます。最初は同じ時代に生きている人なのかどうかも分かっていませんでした(正直英語を追うことに必死だったのもある)。特にDaisyはGileadではなくカナダに住んでいるので、どう繋がってくるのか全然読めなくて。それが、Gileadに行く!となってからはもう面白くて、ページをめくるのが楽しかったです。

語り手がそれぞれ全く違うバックグラウンドを持っているので使う語彙もかなり違っていて、Aunt Lydiaは論文に出てくるようなかっちりした言葉、Agnesは「おしとやかな」淑女が使うようなもの、Daisyはいわゆるふつうの(?)若者言葉だったように思います。だからね、Daisy篇は簡単な動詞(takeとかgetとかgoとか)+in/out/on/off/over(こういうのなんていうの?助詞?)みたいなのが多くて逆に難しかったよ…。邦訳版だと口調でかなり分かるようになっているらしいので、英語がもっと分かる人が読めばよりそういう印象を受けるのでしょうね。Praise be!(Gileadで女性がやたら使うお返事)

 

○ひとはAunt Lydiaたれるのか

私昔からずっと考えているのですが、もし第二次大戦下のドイツにいたドイツ人だったら、ナチスに反抗できたでしょうか。収監されたユダヤ人だったら、反乱を起こせたでしょうか。日本人だったら、戦争には負けると言えたでしょうか。関東大震災で被災した日本人だったら、朝鮮人を殺せと暴徒化した人を止められたでしょうか。朝鮮人を匿えたでしょうか。Auntの立場は、対女性では支配者であり、対男性では従属者です。ナチ政権下における特権的ユダヤ人(評議会とか、強制収容所で優遇されていた人とか)に一番近いかもしれません。

もちろんAunt Lydiaの責任は大きいです。もう少しうまいやり方があったのかもしれない。だけど、どんな大義のもとであっても、誰もその命を犠牲にすることを他人に強いることはできない。彼女は生き残るために必要なことを選択し続けただけとも言えると思います。そして、結果を見れば、Gilead崩壊の端緒を作ったのは最初のほうにスタジアムで兵士にライフルを向けて蜂の巣にされた女性ではなく、Aunt Lydiaだったわけです。うーん、もしその立場に置かれた全員がその女性のような選択をできていれば、あるいはそのときスタジアムにいた女性全員がそれを見て奮起できていればまた状況は違ったのかもしれませんが、それはやっぱりちょっと難しいよねと。それこそ、ユダヤ人たちが整然と列を作って強制収容所に向かう道のりを歩いたことを思えば。

そう、このGileadシリーズの怖さは、一見荒唐無稽に見える設定でも、一つ一つを見ていけば決してありえないと一笑に付せるようなものではないということなんです。キリスト教との関係はちょっと分かりにくいけれど、女性は家事に向いてるとか、男がするような「複雑な」「高度な」仕事ができるようには作られていないとか、私たちにも刷り込まれてきた概念だなと思います。今はまた変わっていたらいいなと願っていますが、私が中高生の頃にはまだ確かに、女子が生徒会長をやるなんてすごいとか、女子は数学が苦手なものとか、そういう感覚がありました。

話を戻します。だからやっぱり、Aunt Lydiaはすごい人だったと思うのです。Thank Tankでのこの誓いを何十年経っても忘れなかったのだから。→I will get you back for this. I don't care how long it takes or how much shit I have to eat in the meantime, but I will do it. 結局強いのは"I"なのかも、とも同時に思います。もちろん、Dr.Groveへの制裁等にも鑑みるように、(自分で作り上げたとはいえ)女性たちへの抑圧に怒る気持ちもあったのでしょう。でも、「私」が受けた苦しみを絶対に忘れない、絶対に復讐してやるというのが根源的な力の源だったんだろうと思います。

その動機がなんであれ、Aunt Lydiaの功績は大きかった。それが分かっているからこそAgnesとNicoleはその名を記念碑に刻んだのでしょう。しかしBeckaと同じようにではなく、そのイニシャルだけだったというその塩梅が絶妙ですね(ここで解説されていて膝を打った)。。結局AgnesはHandmaidではなかったからAunt Lydiaの罪について寛容であれたということだけかもしれませんが。そう、今回はOfkyle/Crystalが少し出てくるだけで、Handmaidは語らないのですよね。

 

○なぜAunt LydiaはBaby Nicoleが必要だったのか

私的この物語の最大の謎。SourceたるAunt LydiaはGileadを危機に陥れられる情報を渡す条件として、Baby NicoleをGileadに寄越すことを要求します。…なぜだ?

1)Commander Juddとの駆け引きに必要だった

Baby Nicoleのことについては逐一Commander Juddに報告しています。だから、彼の信頼を得るために必要だったのか、と思いますが。でも、それまでにも十分信頼を勝ち取ってきたわけで、あえて危険を冒してまでBaby Nicoleを召喚する必要があったのだろうか、と。実際Commander JuddはBaby Nicoleと結婚するなんて言い出すわけだし、得られる利益に対してリスクが大きすぎないかと思いました。うーん、ちゃんと読めてない前半に、Baby Nicoleを必要とするほどAunt Lydiaの立場が悪くなっていた描写があったのだろうか。

2)Maydayの能力を測った/保護の最大化

情報を渡すことは当然Aunt Lydiaにとっては一大事で、命を懸けられるだけの相手なのか測る必要があったのかもしれません。Baby Nicoleを特定、保護できていて、首尾よくGileadに寄越すことができるくらいの能力があることを確かめたかったのかな?かつ、Maydayにとっても最重要アイコンであるBaby Nicoleを指定することで、彼女が生きてカナダに帰れる確率、大事な情報がきちんと渡る確率を少しでも上げたかったのでしょうか。

3)Agnesと出会わせたかった/Agnesを脱出させたかった

すごい性善説ですけどね…。だし、AgnesがAunt(Supplicant)にならずWifeになっていた可能性も少なからずあったわけで、その場合彼女を巻き込むことは不可能です。そういう目的があったとしても、必ずAgnesでなければいけなかったというわけではなかったはずです。立案時点での手駒を眺めたら候補として彼女が浮かび上がり、最後に少しの情を振りかけてAgnesに決めたということはあったかもしれません。

また、この計画においては同行するPearl GirlsがAunt Vidalaのような心からの信奉者であってはいけないので、Gileadの体制に疑問を持ちやすい人としてその血筋はよい要因だったのかもしれません。ついでにAgnesにも、生みの母親に会わせてあげたかった…というのはAunt Lydiaを褒めすぎですかね。

4)単純にBaby Nicoleに会ってみたかった

実はこれもあったんじゃないかという気がしています。意外とこういう単純な動機も大事にしそうなAunt Lydia。という個人的印象。

うーん、たぶん1が一番大きいんだろうけど、私はよく分かりませんでした、その重要性。

 

○Becka…(号泣)

いやもうね、Auntになった名前がImmortelleだった時点で嫌な予感はしていたのよ。フランス語で「不死の」「不朽の」っていう意味だし。Beckaが一番かわいそうだよ(T_T)

父親がCommanderではなかったことで学校でも差別的扱いを受け、その父親からは性暴力を受け、なんとかSupplicantになって一時は希望を持ったもののカナダへは行けず、水槽で一人死す、と。ああ…

Beckaが一番辛くて一番強くて一番優しいんですよね。選択肢なんてないように見える状況の中でも、できる限りのことをしようとする。最低な父親でも死なせてしまったことに責任を感じる。Agnesの状況が変わっても常に一番近くにいた。

私はAunt Lydiaが48時間と言ったのを真に受けて、とにかく48時間隠れてればいいんだと安直に思っていたのですが、よく考えれば結局死ぬかHandmaidになるかしかないよねという。カナダに行けない時点でそれがすぐ分かったはずなのに、絶対にあなたを助けると言うAgnesに付き合っておしゃべりしてあげるBecka尊すぎ。。優しすぎる人は生き延びられないのか…私は君が一番好きだよ!!!

 

○女同士の関係が尊い

いろんな種類の関係が登場するのがたいへんよきです。BeckaとAgnesの友情はもちろんだけど、Auntたちの権力関係、AgnesとNicoleが姉妹になっていく過程、Shunammite(なんて読むか分からんかった、シュナミット?)もなー、鬱陶しいけど悪い子じゃあないのよね…。BeckaとAgnesにしても順風満帆だったわけではなく、清く美しいだけじゃない、定型的じゃない関係が書かれていてとてもよかったです。いろんな劇を見ていてつくづく思うのですが、女性の立ち位置ってすごく限定的じゃないですか。誰かの淑たる妻(浮気することはある)か、下町の女か、娼婦か、王の母か、みたいな。Auntって男のsupervisorのもと女たちを統括する言うなれば時代劇の皇太后的な人たちだと思うんですが、ちょっと愉快なのは、皇太后があくまで息子=王を産んだ代償として得られた立場であるのに対して、AuntがAuntたるのは彼女らの能力の結果なのですよね。だからみんな、自分ベースで物事を考えられる。自分がいかに権力を得るか、自分がいかに立ち回るか、という(思えばチャングムの誓いの最高尚宮を巡るスラッカンでの権力争いはこれに近いところがあるかもしれません)。これは作者が本当にうまい、どこまでも女性に抑圧的なGileadにおいて女性たちの生き生きした関係を描いていてとても楽しく読みました。

 

○Dr.Grove...!

今作随一のクソ野郎。Commander Juddもクソ野郎なのですが、かなり気合いの入った異常者、pedophiliaなので、近くにいそうで怖いという意味でDr.Groveが一番です。

そしてね、Dr. Groveの犯罪を告発できない構造って、まんま#MeTooの世界だよね、と。加害者が男で社会的地位があるために、女の言うことなど一顧だにされないということをみんな分かっている。#MeTooが生まれただけ現実の世界はGileadよりいくらかマシだったらしいと思いつつ、日本におけるそれの結果を見るとくらーい気持ちになります。財務省の対応はまじで何回思い返してもクソだった。Gileadレベルだよ残念だな。

 

↓あと2つ書き足したいのですがいったんタイムオーバーなのでこれだけで。

 

○AuntとHandmaidの犯罪録はなかった

○聖書にひっかけてあるところは諦めた