Parce que c'est comme ça

欧州大学院生。最終目標はバカンスのある人生。パスクセコムサ。

サンダカン八番娼館 望郷

すごい映画をみてしまった。今まで邦画で一番好きなのは、と聞かれたら「勝手に震えてろ」と答えていたけれど、塗り替えたかもしれない。これ1974年ってほんと?すごすぎる。ベクデルテスト*1クリアどころの話じゃない。

 

主演格三人の女優の演技が素晴らしすぎる。朴訥で健気な少女が娼館で騙されたことを詰る怒り、暴力に打ちひしがれて自棄になり、そのために身を売った家族にまで虐げられた絶望まですべて胸をうつ高橋洋子。という壮絶な過去を滲ませつつもあばら家で昼寝をしてくれた見知らぬ女性に素直に好意を示すチャーミングさで惹きつける田中絹代。田舎でひとり東京の輝きを放ちながら、良心と研究者としての欲の間の揺らぎを微妙な目線で表現する栗原小巻。おキク、女将、兄の妻、おさきさんのまわりの村人まで女性がみな素晴らしい。

 

1974年といえば男女雇用機会均等法が制定される12年も前(原作は1972年)。そこに大学に職を得ている女性を主人公として設定しているのがまずすごい。その研究テーマも貧しく苦しんできた女性の生活史とは。女性の苦しみを女性が語り、助け合う女性たちがいて、女性たちが救い合う。徹頭徹尾女性の物語で、その主体性を一度も手放すことがない。かといって迫害する側の男性や帝国主義的構造が透明化されているわけではなく、その害悪もはっきり描かれている。

 

かつてこんな映画が作れた時代が日本にあったらしい。

 

日本に背を向けて眠るおキクさんは、日本という国が女性にとってどういうものかを知っている。それは今もなお、変わらない。

*1:最低でも2人の女性が登場するか、女性同士の会話はあるか、その会話の中で男性に関する話題以外が出てくるか+2人の女性に名前がついているか