Parce que c'est comme ça

欧州大学院生。最終目標はバカンスのある人生。パスクセコムサ。

忘れられない「ありがとう」

なんの脈絡もなく、小説『オリガ・モリソヴナの反語法』の話をします。ええ、お察しの通り煮詰まっています。

米原万理さんといえばご存知の方も多いかもしれません。本当に名作なので本当に読んでほしい。小説を数本しか書かれずに早逝されたのがほんっとうに悔やまれます。私がこの本を知ったのは三宅香帆さんの『人生を狂わす名著50』で紹介されていたから。これをきっかけに『存在の耐えられない軽さ』『恋する伊勢物語』『人間の建設』などを読んだのですが、どれも絶対に外れませんでした。毎回こんないい本があったのかと新鮮に驚いたので、よければ、ぜひ。

www.amazon.co.jp

wrl.co.jp

 

読んだのはもう何年も前なので細部は忘れているところもたくさんあるのですが、いまだに忘れられない、そのとき頭に浮かんだイメージがいつまでも残っている場面があります。ある女性がある男性に「ありがとう」と言うところです。

 

その男性はもうどうしようもないクソ野郎で、めちゃくちゃイライラします。あ、不倫とかそういう第三者にはあんまり関係ないねみたいなやつじゃないくて、なんというか本当に人間として全方位にクズってやつです。そしてそいつはその女性を決定的に辱めた、と吹聴してまわるのです。いかんせんクズなので、まわりはそれを疑うこともなく当然の事実としていました。でも、違った。なんでそんな心境に至ったのかは分からないけれども、実は彼は彼女の尊厳を守っていたということが分かるのです。それを表す場面が、彼女が彼に「ありがとう」と告げるところ。もしかしたらその事情が語られたのは「ありがとう」より後だったかもしれませんが…。

 

現実社会においては、善良な人間であることに越したことはないし、そんな「いいとこもあるんだけどね」みたいな野郎と付き合いたいとは特に思いません。だけど、この小説の中においては、そこだけは守っていたという事実によって人間というものの尊さとか愛おしさがくっきり浮かび上がってきたのです。繰り返しますが、基本はクズなんですよ。他の人の尊厳を傷つけるようなことも平気でやってきた奴です。なのに。

 

小説の力ってすごいなと思います。

私も最近お話もどきを書き始めたのですが、底辺も底辺なりになにかそういうものを描き出せるようになれたらいいなと思う今日この頃です。

はい、勉強に戻ります(まじでこんなことしてる場合じゃない)。