Parce que c'est comme ça

欧州大学院生。最終目標はバカンスのある人生。パスクセコムサ。

嘘を愛する女が無理だった話。

このブログがだんだんゴミ溜めと化している気がしますが…、すみませんね、この映画のファンの方とかネガティブが嫌いな方は今すぐ回れ右してください。

以前「湯を沸かすほどの熱い愛」が気持ち悪すぎたときに、同じように「気持ち悪い」と言っている評に救われたので。書きます。ネタバレしかないです。

 

結論はタイトルのとおりです。無理でした。

予告編を見て、ちょうど直虎にはまっていてイッセイタカハシに傾倒していた時期でもあり、ぜひ観たいと思いつつ時は流れ、先日機内エンターテイメントに入っていたので喜び勇んで観たはいいのですが。

おじさんのおじさんによるおじさんのための物語臭がきつすぎたのと、必要もないのに無神経な描写が多くて無理でした。でも、川栄李奈がすごかった。あと高橋一生長澤まさみが美しかったので一応最後まで観ました。

 

○探偵の存在がまるごと不快

ざっくり言うと、主人公(長澤まさみ)が探偵に依頼して「夫」の過去探しをするメインストーリーに、探偵(吉田鋼太郎)のはーとうぉーみんぐな家族物語(もちろん嫌味)が絡むというありきたりなお話です。まーこの絡ませ方も適当で、適当どころか結末は怒りしかないんですが、とりあえず置いときます。

いやもうこの探偵が、日本の不快なおっさんの具現化というか、依頼者は結構な(ぼったくられた)金額を払ってきちんと仕事を頼んでいるのに、最初からタメ口&失礼。主人公は終始敬語。佐和子@深夜のダメ恋図鑑のこのセリフをお送りしたい。

「オイオイ女に金を出させることに対するプライドはないのかよ」「こーゆー世代のおっさんが偉そうにしてるのって家族を守る経済力だったり包容力に裏打ちされたもんなんじゃないの?その点に関して自分が下に見てる女を頼ろうなんて何事?」「じゃあ何をもってあんなに偉そうにしてるの?」「え まさか」「チンコがついてるってだけであんなにエラそうにしてるの?」「チンコがついてるだけで

道中、宿で一部屋しか空いてなかった描写がなぜ必要なのか全く分からないし、そんな状況に主人公がキレるのも当然なのに、「窓際に追いやられるオジサンの悲哀」みたいな描かれ方になってるのもまじで意味不明。おっさんの夢キモイ。

ほんで主人公がいざ求めていた過去にたどり着きそうってなったときに尻込みするのも全然分かるし、探偵を罵倒したわけでもなし、仕事の対価も払うのに、いきなり「振り回される方の身にもなれ」とかいってキレるのも意味不明。ヲイヲイよくそんな態度で探偵なんかできるな。ま確かにそのあとの主人公の言葉は酷くて(これも場面を動かすためだけのセリフなので浮いて見えるのだが)、探偵が怒るのは分かる。でもなんでどっちもどっちみたいになってんだ?引かなくていい引き金引いたのはどう考えても探偵だろ。そんでなんで主人公が探偵に許してもらうみたいなことになってるんだ??どこまでもおっさんに都合のいい展開だな。

ほんで最高にキモイのが最後。なんで娘(中学生くらい)が仲のいい男の子と歩いてるところに突然横から入ってきて挨拶とかしてんの?いやそれ、関係良好な父娘でも絶対ご遠慮願いたいでしょ。登場の仕方も土手からでその必要性も意味分からんし。「よっ」じゃねえから。そんで、なんで娘にそれを笑って受け入れさすんだ??おっさんは後悔して反省したかもしれんが、それで娘に「父さんなんて呼ぶな」って言った罪が帳消しになるわきゃねえだろ???そんな別れ方してからの久しぶりの再会が「よっ」なわけねえだろ。ちゃんとアポ取って母親同席のもと会いに行ってまず謝罪でしょ普通。それを受けて娘が笑って許すのもおかしいだろ。どこまでおっさんを甘やかさねばならないんだ、しかも若い女の子が。最悪。

というわけで、探偵の一挙一動が「不器用だけど心根はまっすぐな中年男性」こと「傍若無人で自分が大好きなだけのおっさん」でしかなく、とことん不快です。さらに不快なことには、こういうおっさんよくいるよな…という現状ですよね。こういう奴を甘やかす時代はもう終わらせないといけません。

 

○震災とワンオペ育児ノイローゼである必要性が全くない

核心部分のネタバレですが、主人公と高橋一生が出会ったきっかけは東日本大震災の混乱であり、高橋一生が出奔するに至った原因は妻のワンオペ育児ノイローゼによる子殺し&交通事故です。震災からまだ数年しか経っておらず、深刻なトラウマを抱える人も多い。ワンオペ育児は日本社会の構造的問題で、現在進行中で苦しい思いをしながら必死にやっている人がたくさんいます。どちらも、それだけで映画一本できる内容であり、取り扱うには相当の配慮が必要な話題です。だけど、この映画では、「見知らぬ男女が出会うのにありえそうなシチュエーション」「一人の大人が出奔するにたりそうな理由」としてチョイスしているに過ぎない。特に震災のほうなんか、本当に全く、出会う理由以外の使われ方がしていません。それなら別に、バーで隣になったとか、図書館で同じ本借りてたとか、誰も傷つけないシチュエーションがいくらでもあったでしょう。ありそうでない出会いにどれだけリアリティを持たせるかこそが作る側の腕の見せ所であって、そこが足りない分を補うのに安易に使っていい題材ではないと思うのです、震災は。

それと、ワンオペ育児。これも、「謎解きの答え」以上の意味を感じません。なんか感動物語っぽく装ってはいるけど、いやいや、高橋一生お前どこでその罪償ったんや??感しかありません。え、まさか「僕にその資格はない」って口だけで言ったあれだけで「十分反省してます」感を醸し出そうと??いやいや言うなら誰でもできますがな。夢物語を小説に書くのも結構ですけど、あんた同じことを繰り返すんじゃないですか。働きすぎの主人公にキレてんのも反省描写のつもりかもしれないけど、逆切れして公園のブランコて。子どもか。過去の自分を見てるようで勝手に責められてる気になるから止めてほしかっただけじゃないですかね。ここでも男に甘く女にケアさせるおちんちんよしよし現象が。事故直前に妻が笑う描写もよくあるヤツで薄っぺらいし、「こういうときはこうするもんでしょ」以上のものが伝わってこない。あ、あとそれつながりで言えば主人公の職場の話もまじでテンプレセリフしかなくて物語のための場面としか見られません。ここでも偉そうに言ってくるのはおっさんで、女同士が仲たがいさせられる。もううんざり。

さっき調べたら実話ベースだって言うんで、必要性のうっすいこれらもまあ実話なら…と思って詳細見たら、実話なのはしばらく一緒にいた「夫」が素性不明だったこととその「夫」が小説らしきもの書いてたこと、別に妻がいたこと(でも死んでない)くらいだそうで、時代も震災よりだいぶ前。いやいや。ありえん。

 

○素性不明の高橋一生とその過去を追う長澤まさみで成り立つと思ったのは正しい

さんざん悪口を吐き出したので、最後は一応いいところを言っておこうと思います。

素性不明の高橋一生とか色気やばいじゃないですか。そりゃ庇護欲もそそられますわな。分かる。バリバリ仕事する長澤まさみはかっこいいし、ずっと美しい。まあこの二人さえいればとりあえず最後まで観はしますわ。筋書きが多少粗くても引っ張っていけるという見立ては間違いではないです。問題は多少どころじゃなく粗さしかなかったところですが。

そしてもう一人、川栄李奈が素晴らしい。評判は前から聞いていましたが、ちゃんとお芝居を観たのはこれが初めて。うん、評判に違わず、彼女の才能はすごいですね。ゴスロリのストーカーというぶっ飛んだ役だったにも関わらず、他の誰よりも「実在感」を感じさせました。絶妙にいらっとさせる言い回しも、ただのバカじゃないと思わせるところも、セリフだけじゃなく身体のお芝居全部から伝わってきて、でもやりすぎて邪魔になることもない。セリフをしゃべらされてるんじゃなくて、この子がこうしゃべってるんだなと思えました。少し前に「夕凪の街 桜の国」の演技が話題になっていて、観たいなとは思っていたのですが、これは観ねばなりませんね。ただこれも物語全体の評価としては微妙だったので、川栄李奈推しカメラみたいなバージョン作ってくれないかな。笑 ぜひ野木亜紀子さんの作品に出演してほしいです。

 

だいぶすっきりしました。ではまた。